昨日今日いつか来るあした -読切り「エネルギー・環境」-

目次の詳細と「はじめに」

   

第一講  化石燃料の枯渇 

 エネルギー消費の現状 石油の寿命  限りある化石燃料の大切さ 石炭をうまく使う 悩める原子力 エネルギー問題の昨日今日 大きな物語の破綻  ついに行く道  将来の一シナリオ

第二講  二酸化炭素による地球温暖化 

大気中CO濃度の上昇  CO2の発見と化学革命  地球温暖化のメカニズム  太陽からの電磁波  CO2分子の赤外線吸収と温室効果  ハウス栽培用温室と温室効果  CO2温暖化説に対する懐疑  予測の困難さについて  

第三講  二酸化炭素対策の困難性

CO2の低減策  CO対策と化石燃料枯渇対策の優先順位  CO2量の膨大さ CO2処理利用技術の百花繚乱?  燃焼排ガスからのCO2回収  CO2の海洋隔離と評価  

第四講  発電技術の高効率化 

高効率化・省エネルギー技術の必要性  熱と仕事のとっつきの悪い間柄  第一法則  第二法則  エネルギーの単位  火力発電の効率向上の推移  集中型と分散型の競合と連携   容量と熱機関の効率の関係  生体のエネルギー利用  

第五講  再生可能エネルギー  

再生可能エネルギーとは  再生可能エネルギーの特徴と評価  再生可能エネルギーは持続可能社会の基盤    太陽光発電と風力発電  バイオマスのポテンシャル  バイオマスは炭素中立  バイオマス液体燃料への期待   バイオデイーゼル油  再生可能エネルギー利用の将来課題

第六講  エネルギーの利用媒体・水素とアルコール 

エネルギー転換機器とニ次エネルギー  水素の特性  水素は何処から  そこはクリーン・高効率  エネルギー媒体としてのアルコール  飲むアルコール・飲めないアルコール メタノールの製造方法とその利用  エタノールの製造方法とその利用  触媒の精妙さ 輸送用燃料としてのアルコール  バイオメタノールとエタノール

第七講 燃料電池と将来の自動車

エネルギー・環境とマスメデイア    燃料電池は発電装置  燃料電池の歴史と用途  燃料電池の仕組み  再び効率の話   燃料電池の効率  太陽電池との比較  将来の自動車と燃料  究極は燃料電池車それとも電気自動車? 

第八講  酸性雨と大気汚染  

酸性雨・大気汚染は化石燃料から  二一世紀は環境の世紀  酸性雨とは  酸性雨の将来  世界に冠たる日本の公害対策技術  固定発生源の脱硫・脱硝  いろいろのNOx 燃焼でのNOxの生成と抑制  NOxについての先人達の成果    生体内でのNOXの作用

第九講  フロンによるオゾン層破壊  

セレンディピティ  オゾン層のはたらきとオゾンホール  オゾン層・大気は地球と生物の歴史の産物  オゾンの効用と毒性  フロンの発明の幸運  フロンとオゾンの不運な出会いー連鎖の恐ろしさ  代替フロンと今後の課題

第十講  ダイオキシンと環境ホルモン 

無数の化学物質と環境ホルモン イボニシのオス化と船舶のエネルギー消費  分析技術の重要性   ダイオキシンの毒性と発生源  焚き火とダイオキシン  燃やすということ  判っていることの深遠さと判らないことの素朴単純さ  環境ホルモンの今後

第十一講 エネルギー・環境問題と科学技術 

環境をめぐる諸問題と動向  世代間倫理とエネルギー  文理の融合  技術者倫理 とエネルギー・環境    科学技術者の現在   研究開発競争と研究費  エネルギー・環境技術の研究開発

第十二講 持続可能社会へ向けて

かけがえのない地球生態系の転機  エネルギー・環境問題と人類の行方   ヒトの特殊性・エネルギー使用 べき乗の歓喜と恐怖   「変わる」ということ   最終講義

 


はじめに

 エネルギー、環境関連のトピックスは、新聞、TV、インターネットなどのメデイアで休むことなく報道されている。それだけ重要かつ関心の高いテーマである。ただ、それらはやはり断片的にならざるをえず、新技術開発が進んで一喜したり、原油の値上がりに一憂しても、全体の中での位置づけなり、意味を十分に理解していないと、空喜びとなり、或いは杞憂で終わってしまう。

主題はエネルギー・環境であるが、これはエネルギーと、それに強く関連した環境という意味である。ここで「エネルギー」は内容としてある程度限定されるが、環境となるとその範囲が極めて広い。例えば、考え方によっては、全ての研究開発は環境問題に関係付けられないことはない。著者は大学で工学系の学部生、環境系の大学院生に対して、関連の講義をいくつか担当している。内容はエネルギーの利用と、それに起因する環境問題であるが、そのように限ってもなかなか複雑多岐多様である。加えて、議論がある、というより争いがあるといったほうが適切なテーマも多い。従ってこの分野においては、単に基礎知識を蓄積するだけでなく、自分自身で考える事が重要となる。といっても既に工学の分野だけでことは済まないことも、自明になって久しい。

 ただ、現実的には限られた講義の時間内で、それぞれの具体的課題がどのような状況であり、どのような論点があり、という所にまで到ることは不可能に近い。非才な教師としては、勢い、石油は40年後には枯渇するといわれている、というような、単純でインパクトはあるが、誤解をつくる表現で終らせてしまう結果になる。そこで、エネルギー及びそれと強く関連した環境問題について、勿論それぞれの詳細・厳密な議論は他の成書に当たって頂くとして、講義の副読本などの形で利用に供してもらえればと思い立ったものである。また一応独立した読み物としても利用できるよう、基本的事項は簡単な説明は加えている。エピソードはなるべくエネルギーに関連するようにし、興味を持って読んで頂くために、心ならずもやや刺激的な表現も用いた。勿論広範にわたるエネルギー・環境問題の一斑ではあるが、主要な課題は概観してもらえるのではと期待する。

上記の目的であるから、本書は状況を概観し知識を補充するもので、この方面の関係者からすれば、特別に新規な知見を含むものでもなく、また何らかの処方箋や方向性を推奨する意図をもつものでもない。ときに個人的な経験・見解を含む部分もあるが、主眼はそれぞれの論点や見解の多様性なり困難性を理解し、知識の幅を広げてもらうためである。基本的には内容はそれぞれの講で独立しており、食傷気味のテーマについては飛ばしていただいて結構である。

10年以上も前、企業生活の大半をエネルギー関連の研究に捧げ、定年になろうとする先輩に、考えをまとめて頂くようお願いしたが、固辞された。エネルギー事情は、年々、というより日ごとに変化している、それをある形にして固定化する事は至難である、との理由であった。ここでは、時間尺度はできるだけ長くとるように心がけてはいるが、それでも、最近では特に新たな国際情勢の変化によって日々見解を修正する必要があるのが、このエネルギー・環境問題であり、副題の「読み切り」とはそういう意味でもある。

とりあえずは、理工系或いは環境関連の学部または大学院生に対する講義「エネルギー・環境工学」の副読本と想定いただきたいが、学生諸君だけでなく、企業でこのような技術開発や製品化に携わっておられる方々、さらには、エネルギー・環境に関心をもたれている一般読者の方々にいささかでもご参考になれば幸いである。

平成19年10月 著者 しるす