第7講(1) 燃料電池の効率

 周知のとおり、自動車用を含め、近年の燃料電池技術の進展は著しく、それに伴って一般の方々の認識も深まりました。当時は、マスメデイアも盛んに取り上げ、燃料電池への期待は「これさえ出来ればエネルギー問題は全て解決」という感さえ抱かせるほど大きなものでした。

 いまも脱炭素に関連して議論が盛んですが、例えば、自動車の動力について、エンジン方式、燃料電池方式(PEFC)、バッテリー方式(EV)のいずれを採用するかは、CO2温暖化問題とは直接の関係はありません。もとが太陽光、風力、或いはバイオマスなどのCO2フリーの自然エネルギーまたは原子力なのか、CO2を排出する化石燃料なのかだけの問題です。電力製造に化石燃料を使う場合、逆にエンジン燃料としてガソリン、軽油でなくバイオマス燃料、或いは太陽光などの自然エネルギーまたは原子力の電力由来水素やその誘導体を用いる場合を考えれば当然です。何十年も前から、多くの人の指摘があっても依然一般の認識にはならないようですが、要するに一次エネルギー供給抜きの話は余り意味がなく、おかしなことになりがちです。

関連の著書です。

雑説 技術者の脱炭素社会」 梓書院、2021年12月)

2023年11月、通常現代文の解説(50頁)を加え、改訂しました

改訂増補版; アマゾン https://onl.bz/pDuFDYn

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「現在の脱炭素社会へ向けての活動が、相応の覚悟と確かな目論」によってなされているとすれば、我々は新たな文明への分水嶺の目撃者たる運命を担っていることになる。もしその覚悟と目論見なくして今の状況があるとすれば・・」的なことを、古色蒼然の文語体で至極真面目に書いた本(笑)

目次、一部例(本文は文語体ですが、じきに読み慣れるかと思います)はこちらをご参照ください。 

雑説 技術者の脱炭素社会

内容について自分で解説しました(これは通常現代文です)

もう一つの新著です(2022年8月)。

「企業の実験・大学の実験 反応工学実験の作法」 https://onl.bz/YeZ3SC  (アマゾン)

(補説「ハーバー・ボッシュ法アンモニア合成と現代」の部分を記事にしました→ こちら )

 ここに示したのは、燃料電池についての15年前の状況です。 (2020年6月)

(「昨日今日いつかくる明日―読み切り「エネルギー・環境」―」(2008年刊)より抜粋)

エネルギー ・環境とマスメディア   

 一時期、朝、何気なしにラジオを聞いていると、アナウンサーが、最近石油に替わる燃料電池というものの開発が進んでいるそうですね、と明るい未来に相応しい快活さで問いかけ、解説者が充分判っているに拘わらず結局は明確な解答を与えない、ということが一度ならずあった。燃料電池は燃料を消費して発電する装置・エネルギー変換機器であり、現在は都市ガスが主に用いられているが、石油も当然燃料になり得る。石油の最後の一滴がなくなる(現実にはそういう事はなく、価格が高騰して使われなくなるだけだが)、その時に代わりになる燃料電池を差しだしても意味がない。飢餓に苦しんでいる子供に、食糧ではなく煮炊き道具と食器を渡すようなものであり、全く異質の概念に属する。

 昔は、微笑ましい記事に出会うことがよくあった。例えば、燃料電池は空気を燃料にして電気をつくれる、つまり燃料は不要と本気で信じているような記事である。燃料電池は石油に代わるもの、とすればそうなる理ではあるが、勿論心から和めるものではない。空気電池というものがある。これは現在補聴器用として一般的に使われている、乾電池と同じ使いきりの電池の一種である。名前から空気のみで電気が取り出せるようにも聞こえるが、全体の電極反応としては金属亜鉛が酸化消耗することによって電力を得る。そしてこちらは、専門家にしか理解の要請はないから支障は全く生じないのである。当然ながら元の燃料(天然ガスなど)に言及せず、燃料電池からはH2Oしか出ないという報道も多かった。

 エネルギー・環境問題についてはマスメデイアの影響力が大きく、それに比例して期待も大きい。関連の新技術や新製品の開発について、的確な情報をより多くの人に伝えることが、単に科学や技術に関心をもたせるという意味を越えて重要なことは贅言を要しないし、研究者・技術者側からの直接発信は限定されるから当然である。ただ、一般的な省エネルギーの推奨などは別にして、優先順位、トレードオフ(あっち立てればこっち立たず)、全体と部分の調和など、これらの配慮、知識、表現力がとりわけ必要な分野でもある。しかし当然前提にあるはずの入り組んだ状況説明や仮定は、一般報道には合わないし、読者や聴視者は混乱するだけである。結局、局所部分を越えての伝達はなかなかに困難であり、それが、時にこのような事態を生んでいるのであろう。

 以下は、11講で述べる技術者倫理とも関わる設題である。

 あなたが燃料電池の技術者とする。ある企業(A社)で家庭用の燃料電池の開発を担当している。TV局の取材申し込みがあり、A社のPRにもなるので引き受けた(録画して、TV局で編集し、後日放映になる。放映時間は夕方の5分間、主対象は家庭の主婦である)。

 アナウンサー 「この燃料電池からは、水しか出ません。COもでず、地球温暖化の観点からも、全くクリーンで皆さんの家庭に一台の将来が期待されます、という説明でお願いします」。「いや、燃料電池からはそうですが、これは都市ガスがもとの原料ですので、この手前の水素を取り出す改質器というところでCOが出ています。しかしそれでも全体としてはエネルギーの利用効率が高くなり、COの排出量も大きく低減されます」。アナウンサー「それをいうと、一般の皆さんに判りにくくなります。燃料電池がクリーンというイメージも曖昧になってしまいます。時間も短いので、これでお願いします」

 如何に対応すべきだろうか?

燃料電池は発電装置 

 燃料電池は、図7 ・1に示すように、タービンやエンジンのような熱エネルギー、運動エネルギーの過程を経由する熱機関と異なり、燃料の持っている化学エネルギーを連続的に直接電気エネルギーにかえるエネルギー変換機器である。

 化石燃料のもつ化学エネルギーも、それから得られる電気エネルギーも、同じエネルギーだから相互に変換し得る。化学エネルギーを解放し電気に変換する方式としては火力発電が代表的であるが、燃やして高温をつくることが絶対必要、ということはない。直接電気にも変換でき、それが燃料電池である。将来の水素社会は、逆に電気エネルギーを化学エネルギー(水素)に変換することを基本に想定されているのだろうが、現在は実質上殆ど行われていない。

 燃料電池は発電効率を高くできる可能性がある他、振動・騒音が小さい、窒素酸化物(NOx)などの公害成分の発生が少ない、などの利点が期待できる。電気は、勿論防音はしてあるが、エンジンやタービンの回転音を轟かせながらつくるものと思っている技術者は、静かにあっけなく電気ができてしまうことに新鮮な感覚を持つようである。ただ、公害成分である硫黄酸化物(SOx)や煤塵の排出がないというのは、灰や硫黄を含まないクリーン燃料、ないし何処かでその前処理を施した燃料しか使えないという意味でもあるから、燃料電池自体の利点とは言えない。

 表7 ・1に示すように、燃料電池のタイプは,中心的素材である電解質の種類,あるいは使用する燃料種類などによって分類され,多数に及ぶ。そのうち,現在開発が進められている主要な燃料電池は、電解質の作動温度が高い順に、固体電解質型、溶融炭酸塩型,リン酸型、固体高分子型などであり、現在自動車用や携帯電話・パソコンなどのモバイル用に開発が進められているのは最後の固体高分子型である。

 これらの燃料電池は、それぞれ性格、利用法もベースとなる要素技術も業界も違う。例えば電極反応を促進させる為の触媒技術は全ての電池に共通だが、低温用の固体高分子型は高分子、高温用の固体酸化物型はセラミックスが中核技術であり、またプラント化技術、制御技術もひと括りにはできない。従って違ったタイプの電池開発者は一般には同業者としての近親感をもっているが、外部の注視度合いが余りに違ったりするとアンビバレンツな感情に悩むことにもなる。

燃料電池の歴史と用途  

 燃料電池の歴史は古い。燃料電池は1839年、英国のW・グローブ卿により発明された。この「燃料電池の祖」は、もともとは法律専攻であり、裁判官としての業績によりナイト(卿)に叙されている。病気のため、職務を離れている間に、希硫酸を電解液、白金を電極とした水素‐酸素の反応系で電気を発生させ、今をときめく燃料電池の発明に到ったのである。原理としては、M・ファラデーの師に当たるH・デイビー卿により示唆されていたものであるが、こちらのナイトは我々が知る金属ナトリウムの分離などの学術発展への功績を顕彰されたものである。しかし,燃料電池が実用に供され、また一般に認知されたのは1960年代の有人宇宙船,スペースシャトル用の電源として採用されてからであり、それまでの百年余は,原理が確立しても,使用する材料,製作技術が伴わず,内燃機関や蒸気発電などの「電気つくりのライバル達」を陵駕できなかったのである。それが,30年ほど前から,高い発電効率,優れた環境適合性が注目される所となり,再び各方面で精力的な開発が展開されるようになった。

ウィリアム・グローブ(英、1811-1896)

判事としての法廷の仕事を病気のため中断している間に、科学的研究に興味を持ち、1839年、28才の時、燃料電池の実験に初めて成功した

ハンフリー・デービー(英、1978-1829)

ボルタ電池を用いた実験により、K、Na、Ca等を発見。鉱内作業用の安全灯(デービー灯)をつくったことでも著名。


 用途としては、従来は大型の火力発電代替、中小型の分散電源、家庭用電源などが主対象であったが、最近は上記のように自動車やパソコンなどの主電源などとしての利用が活発に議論されている。この将来自動車用としての燃料電池については期待とともに、実用化の障壁はかなり高いともいわれている。触媒として電極に使用される白金は、有史以来の総生産量が金の1/40の5000トン弱に過ぎない文字通りの貴金属であり、現在の世界の白金の生産量は年間 180トンである。いろいろな気体に対して吸着性が強いため触媒性が大きく、多くの重要な化学反応に用いられる。自動車排ガス処理の三元触媒の主要成分であることは周知の通りである。現在の白金使用量でいくと燃料電池車一台で約100グラムの白金が必要で、現在の日本の自動車の全てが搭載すると、先の有史以来の世界の生産量に近い白金が街中を動き回ることになる。それもこれほど貴重な貴金属を積みながら発電所と異なり、動いている時間は一日のうちに数時間である。そこで白金に代わる材料も検討されてはいるが、白金量の低減が現在の主要な開発課題の一つとなっている。

燃料電池の仕組み 

 「燃料電池」は英語のFuel Cellの直訳であり、最近は一般の理解も進んできたが、電池という名前から、乾電池やバッテリー(蓄電池)のようなものと誤解する人も多い。陽極、電解質、陰極から構成されることは、乾電池、バッテリーと同じだが、内部に活性な化学物質を元とする電気が池のように溜まっている訳ではない。また同じエネルギー変換機器でも太陽電池のようにじっとしていても、自然の太陽光で発電してくれるものでもなく、外部から燃料を連続的に供給し、内部で酸素と反応させて水を生成し、これを外部に排出させる必要がある。ガソリンエンジンや蒸気タービンのような広い意味の熱機関に分類した方が一般には誤解がないかもしれない。

  一般に易しく説明するときの決まり文句は「燃料電池は水の電気分解の逆」である。水を電気分解すると、陽極から酸素、陰極から水素が発生するが、逆に陽極、陰極にそれぞれ、酸素、水素を供給し、電気を得るエネルギー変換装置が燃料電池である。燃料がもつ化学エネルギーを直接電気エネルギーに変えるので高い熱効率が期待出来る。判ったような気持ちになるかも知れないが、これ以上になるとやや面倒なことになる。

 「水電解の逆、中学生の時に習ったでしょう」と言われると、一般の人はなかなか続けて質問しがたいようである。それぞれのレベルに応じて質問が憚られるらしい。文系の「知らないでも別に」と思っている人はともかく、水電解を思い出さない人、思い出しても電解質は水でなく硫酸だったか、苛性ソーダでは不都合だったか、化学の世界でも昔は電気化学は比較的マイナーな分野だっただけに、水を分解するための電圧はどのように決まるか、等にまで及ぶと実は水電解についてでさえ正確な知識をもっている人は少ない。ましてその逆である。更に、酸化側は、酸素でなく空気ではだめなのか、駄目でなくとも効率が落ちるのか、水電解の逆なら同じ装置で燃料電池にも水電解つまり水素製造装置にもなるのか、位はまだいいが、燃料電池の種類によっては、酸素のマイナスイオンが動いたり、水素のプラスイオンが動いたり、時にはそれが何個かの水分子を引き連れていたりして、結構難解なのである。

  ただ、最近は、リバーシブル固体高分子型燃料電池、即ち、電気を流せば水の電解ができ、配線を変えて水素と酸素を流せば燃料電池になる装置を組み込んだ教材キットが販売されている。数万円足らずの価格で、この分野の最近のヒット商品とのことである。多結晶型の太陽光発電装置が付属しているものもあり、まずこれで太陽光に曝して発電した電力を用いて水を電気分解する。5分ほどの電気分解で水素と酸素ができたら、配線を切り変えて燃料電池のモードにする。すると電気が発生してモーターが起動し、燃料電池車が逞しくも軽快な音とともに走り出し、ほどよい時間で水素が切れて停止して、隠しバッテリーなどではない、と納得できるという仕組みである。動くものにはみな強い興味を抱く。この場合、既に電気分解のクーロンの法則とか、燃料電池・太陽電池の仕組みなどを学習していると、関心の度合いも更に高い。

再び効率の話  

 図7 ・2に火力発電、燃料電池発電、風力発電、それぞれの方式による損失の概略例を示したが、それぞれの機器には理論的なエネルギーの利用効率の上限値があり、またその定義・内容も多様である。例えば風力発電では、入ってくる風のエネルギーを全部利用してしまうと、後流には風が流れないことになるから何らかの限界があることが判る。これはベッツの限界と呼ばれる制約で、風力発電では利用効率は16/27(59.3%)以上の効率とはならない。また通常の熱機関には先述したカルノーの限界(η=1−T/ T)がある。現状の蒸気タービンでいえば、T=600℃(873K)、T=15℃(288K)としておよそ67%になる。しかしこの場合、高温源の温度をより高く、低温源の温度をより低くしていけば無限に100%に近づくともいえる。今、装置のコストや、材料技術が伴わないから現実的に困難なだけである。

 さて利用効率の分母は、風力発電の場合、風が持っている力学的エネルギーであり、熱機関の場合は化石燃料などが持っている化学エネルギーである。風力発電はもともと空しく流れ去っていたエネルギーを利用するものだから、従ってこの効率を、化石燃料を消費する燃料電池や上記のようなガソリンエンジン、蒸気タービンなどの熱機関と比較するのは無意味である。どちらも、より効率が高いほうが好ましいことは当然であるが、相互の比較は意味がない。例えば、エネルギー変換効率では、水力発電に敵うものはない。大型の発電装置では90%に達する。風力発電と比較すると、作動流体である水の密度は空気の約1000倍であり、またローターを密閉容器内で回転させ得るからであり、同一の発電能力を得るには風車の場合、約100倍の大きさのローターを必要とする。だからといって世の中は水力発電ばかり、という事にもならないのでる。

 太陽電池や燃料電池にも理論的な限界がある。ただ両者は性格が違う、というより、類似した点は殆どないといった方がいい。両電池とも性能はいずれも電流と電圧の関係で示されるが、太陽電池、燃料電池で横軸、縦軸は必ず異なって表記されるのが、現実的な場面での一例である。即ち、太陽電池は横軸に電圧、燃料電池では電流をとる。ベースとなる技術分野も電気系と化学系で異なり、この双方を実際に現場で手がけている研究者・技術者は希少な存在であろうが、ともあれ同じ「電池」でもあるから、ここで性能・効率の点から比較してみよう。上記の風力と水力の関係と同様、お互いの間の効率の優劣に意味はない。

燃料電池の効率

 燃料電池の最大の利点は高効率を期待できることである。ただ化学エネルギーを直接電気エネルギーに変えるからといって熱効率が100%になるわけでも、また、実際上も無条件で高効率につながるとはいえない。太陽電池が、太陽光のエネルギーを直接電気に変えるからといって高効率とはいえないのと同様である。燃料電池はうまくやれば高効率になる可能性がある、という方が正確である。

 燃料電池は原理的に効率が高いといわれるが、理論的には、水素と酸素の場合、25℃では、83%(高位発熱量HHV基準)の熱効率にしかならない。高温で作動させれば、意外に思われるかも知れないが、さらに低くなる*。熱効率とは、この場合、電気出力と投入した燃料のエンタルピーとの比であるが、実は燃料電池では、熱エネルギー(エンタルピー)だけでなく、例のエントロピーが関連する項が関与した「ギブス自由エネルギー」分が有効仕事、即ち電力に変換されるからである。これは、自発的反応は系のエンタルピーが減少する(即ち発熱する)方向に進みやすいが、それだけではなくエントロピーが増大する(即ち無秩序の)方向にも進行し易く、この両者の兼ね合いで化学反応が律せられることに起因している。

*カルノーサイクルの低熱源温度を20℃とすると、作動温度900℃ではカルノーサイクルの熱機関と水素・酸素燃料電池の理論熱効率はほほ等しい(低位発熱量基準)。

 では次に、何故実際の燃料電池の効率は83%(高位発熱量基準)ではないかというと、無限に大きな電池はその熱効率になるのだが、実際にコストを考慮してある大きさで作ると抵抗(オーム抵抗、反応抵抗、拡散抵抗)が生じて損失になる。それを差し引いたものが燃料電池本体の現実的な性能なのである。結局経済性とのバランスで、電池本体だけでは、燃料をH2に転換してもってきたにしても40から50%の熱効率になってしまう。

 発電用としては、現在天然ガス燃料のガスタービン・蒸気タービン複合発電では50%程度の効率になっているから、何か他に特典がないと価値はない、ということで大型集中型では水素だけでなく天然ガスや、一酸化炭素(CO)も直接利用でき、石炭にも適用可能な高温型の燃料電池をガスタービン・蒸気タービン発電と複合して従来型を大いに凌ぐ発電効率を、また小型の分散型では電気だけでなく廃熱も併せて利用する熱電併給を、となるわけである。図7 ・3に固体電解質型あるいは溶融炭酸塩型燃料電池を用いる複合発電システムの例を示した。化石燃料を用いる発電方式としては最も高い効率が期待されているものである。この場合、高温型の燃料電池を用いて高くできるのはプラント全体としての効率であって、それは高温の廃熱を利用して複合発電を組めるからであり、燃料電池の部分だけでは効率はそれほど高くはないし、それで経済的に成り立つようプラント全体がデザインされるのである。

太陽電池との比較

 現在の主流であるシリコン太陽電池の変換効率は、単結晶系で約20%、多結晶で約15%、アモルファス(非晶質)で約10%である。ここで変換効率とは、入射光のエネルギーのうち電気に変換した割合を示す。太陽の最大入射エネルギーは約1kW/m2であるから、有効面積1m2の太陽電池で0.1〜0.2kWの出力となり、一般家庭の3kWをまかなうとすると、約30m2の面積を要することになる。また、昼夜及び天候も考慮した年間平均の日射量は日本では145W/m2であり、年間の発電量は1kWの出力装置につき約1000kWhで稼働率としては10%強程度しかないことになる。

 太陽電池の高効率化は、直接に所要面積の低減、コスト低減につながるが、太陽光からの電気エネルギーへの変換には素材によって決まるあるエネルギー範囲の光子しか有効でなく、この段階までの損失を考えると理論効率は約30%となる。残りは透過してしまったり、電気にはならず熱エネルギーに変じたりする。その他、電池表面での反射損失や、出力させるための電気接合の抵抗(オーム)損失などがあり、最終的な効率は、入射太陽エネルギーに対して10〜20%になる。

 サハラ砂漠に太陽電池という想定は良く出る。太陽電池は面積を大きくすると電気の出力は大きくなる。これは誰でも判るが、燃料電池の場合は面積を大きくするとどうなるのだろうか?

 太陽電池の場合、入ってくるエネルギーは、太陽光であるから、出力は受光面積に比例する。一方、燃料電池の元になるエネルギーは供給される燃料であり、燃料電池で出力を増そうとすれば、太陽光の入射エネルギーに相当する燃料の供給量を増やすことになる。それでは面積は全く関係ないかというとそうではない。燃料電池の取り出せる電流は消費した燃料量に比例する(クーロンの法則)から、いま燃料供給量が一定とすると、面積が大きいことは単位面積当たりに受け持つ電流値(電流密度)が小さいということであり、そうすると電池のいろいろなロスが少なくなる。前述のように無限大の面積を想定すれば、理論熱効率、即ち水素酸素の場合、常温で83%になる訳である。逆に小さくしていくと、効率が低下してある大きさ以下では実質的には発電不能となる。

 従って、効率としては理論値内であれば、いくらでも取り得るのであって、自動車用として開発されている固体高分子燃料電池(PEFC)の発電効率が通常40%といわれるのは、経済性を考えた大きさで、ということなのである。言い換えれば、燃料や電力の価値が極めて高価な場合は、装置に費用をかけても構わないが、廉価であればコンパクトさ・高性能が厳しく求められることになる。(以下省略)


図7.1 電気エネルギーへの変換方式

燃料電池は熱エネルギーを経由することなく燃料の化学エネルギーから直接電気エネルギーを得るエネルギー変換機器(発電装置)である。


表7.1 燃料電池の種類と特徴


固体高分子型
(PEFC)

リン酸型
(PAFC)

溶融炭酸塩型
(MCFC)

固体酸化物型
(SOFC)

電解質

イオン交換膜

リン酸水溶液

Li2CO3-Na2CO3
Li2CO3-K2CO3

ジルコニア系
セラミックス

作動温度

常温〜80℃

〜200℃

600〜700℃

〜1000℃

反応可能
化学種

H2,CH3OH

H2

H2,CO

H2,CO

主たる
原燃料

天然ガス
メタノール

天然ガス
ナフサまでの軽質油

天然ガス
石炭

天然ガス
石炭

用途例

家庭用,自動車用,
パソコン用電源など

分散型電源

分散型電源・
大型火力代替

分散型電源・
大型火力代替

燃料電池にも多くの種類があり、パソコン用の電源から大型火力発電代替までで、それぞれの特徴を生かした用途が検討されている



図7.2 各種発電方式による損失の概略例

それぞれの発電方式について、固有の理論的な制限と機器運用のための固有の損失要因がある。


図7.3 高温型燃料電池(SOFC,MCFC)を用いる複合発電システム

高温型燃料電池はガスタービン、蒸気タービンと複合して高い発電効率を得ることが可能である。また石炭をガス化 ・精製して、燃料とすることもできる。