7.核融合と脱炭素

   「雑説 技術者の脱炭素社会」の自解(7/21)

( あたか ) も時、科学技術 沖天 ( ちゅうてん ) の勢ひなほ残りてあり。すなはち、核力平和利用に最大限の期待ありて、近き将来、電力は原子力にて賄はれ、貴重有限なる石油、石炭は工業用原料として末永く利用さる。而して核融合の本格的なる実用化成れば、人類、末代 ( とこ ) しなへにエネルギー問題より自由とはならん。豊富なるエネルギー、これ直ちに移して以て他の全ゆるものの豊富を意味す

 表掲文は1960年代の状況である。人類のエネルギー利用の歴史からいえば、核利用は火の利用、産業革命と並ぶ最大の成果の一つで、それも原子の知識を含む「科学」なくしては成し遂げられなかったものである。

 最近、核融合について「燃料に投入した以上のエネルギーを生み出し、『純増』させることに初めて成功した」との発表があった。CO2、高レベル放射性廃棄物を出さない「夢のエネルギー」と表題に付言されている。核融合実験でエネルギーの純増はいつかはできることで慶賀しても驚くものではないが、これがCOと結び付けられていることにはやはり驚き、考えさせられるものがある。

 ただ、表掲文の通り、「地上の太陽」核融合は1960年代には、すでに将来の人類究極のエネルギーとして期待され、気早の向きには2000年には実用化されているとの予想もあった。1963年刊行の一般向け啓蒙書には、「科学の歴史を振り返ってみると、どんな問題でも、予想より早く解決されるのが常なのです。それも往々にして奇想天外な方法で成功するものです。核融合の平和利用という素晴らしい課題も遠からず解決することでしょう」とある。皆で陽気に盛り上がった常温核融合はすでに遠いことであるが、ここでいう奇想天外な方法に相当するかも知れない。

 この核融合は少し待てばできる、そうすれば無限にクリーンなエネルギーが得られる、と期待していた時代からすれば、今頃は地上の太陽が、すでに10個や20個出来ていても不思議ではない。そしてそれは枯渇する化石燃料に替わって、これから数百年、数千年にわたるエネルギー、またそれを元につくることのできる様々な製品の供給(表掲文にある「あらゆるものの豊富」)を保証するものであった。すなわち、核融合技術の確立・実装化は人類のエネルギー問題からの解放であって、CO2排出低減とは意味合いも異なり、少なくとも30年内の本格的実用化は困難であろうから、今となっては時期的にも重ならないのであるが、やはり今はそれと結びつける方が読者の関心を引くのであろう。

 昨今はこの核融合にかわって、再生可能エネルギーが、廉価かつ無限に供給できるかのような意見も少なくないようであるが、エネルギー分野の将来予測は容易ではないとしておくのが無難のようである。

本文は「雑説 技術者の脱炭素社会(改訂増補版)」(2023年11月、梓書院)の「自解優游」の一部です。

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