8.エネルギー利用のはじめ「火」

   「雑説 技術者の脱炭素社会」の自解(8/21)

・・これもとより神話伝説の類にして、現代の考古学、人類学によらば、火の使用の証拠遡るに、50万年余前の北京原人に至るといふ。すなはち人類、50万年以上前のいつとは云はん或る日、火起したるを以てエネルギー利用の起源と目すべし。 ( しか ) してこの技術もとに、他の動物に優越して今日の繁栄築くに到れり。

 最近の人類学ではヒトの誕生、すなわち類人猿から二足歩行の猿人となったのは1000万年前から800万年前とされる。また我々現生人類であるホモサピエンスがアフリカで生まれたのは20万年前であり、「火」の発見は、その間の「原人」のころのことで、50万年前の中国周口店の遺跡で、北京原人が火を使って動物を焼いた跡が発見されている。ただ、これを人類の「火」の利用の決定的証拠とはできないとの異説もある。人類に続いて火を操る次の動物は、さすがに50万年や100万年程度では現れないようで、この点に関しては、人類は当分安泰である。

 「火」すなわちものの「燃焼」は、特に産業革命以降さまざまな用途に、また大掛かりとなって利用され、人類のエネルギー獲得の主要な手段となって現在に至っている。今では電気をつくるにせよ、自動車を動かすにせよ、一般には機械の中の見えないところで、多くは化石燃料を「燃やす」ことによってわれわれの文明が支えられている。

 今、脱炭素社会を目指し、再生可能エネルギーとして、太陽光発電、風力発電などの利用・開発が盛んである。ひと昔前の家庭では、炭火に火鉢で暖をとったり、練炭を使った七輪で簡単な調理をしていた。これらは今の若いひとには想像できない既に遠く過ぎ去った時代である。同様に、今の灯油ストーブで暖をとること、都市ガス或いは液化石油ガスで調理すること、これらも脱炭素社会が成就すれば、遠い過去の想い出となるのであろうか? すなわち脱炭素社会が、CO2フリーの電力中心の社会となれば、必然的に通常の意味の「燃やす」という行為は少なくなる。しかし最終的に全くなくなるわけではない。化石燃料ではなく、バイオマスあるいは電力起源の水素、合成燃料がその対象に擬せられるが、「燃焼」の技術はこれまでもそうであったように、時代の要請に応じた形で今後とも進化発展しながら重要な場面で利用されていくこととなろう。

本文は「雑説 技術者の脱炭素社会(改訂増補版)」(2023年11月、梓書院)の「自解優游」の一部です。

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