まえがき

 本書の本篇は、企業或いは大学での実験、特に反応工学の実験にあたっての留意事項を、読み物風に叙述したものです。読者としては、関連学部学科の学生さん、また企業で同様の実験・研究に携わっている方々を想定しています。ただ、一般的内容も含んでいますので、他の工学分野の研究者、技術者の参考になる所もあるものと期待します。

 具体的な事例があった方が判り易いのではという想いから、特に最近の重要課題であり、また著者が長年関与してきた温暖化問題をはじめ、窒素酸化物(NOx)などのエネルギー・環境にかかわる事項を、著者の個人的経験や関連のエピソードをまじえ、多く例に取り上げています。題名に、大学より企業が先にあるのは、勿論共通的事項も多いのですが、自身の経験のウエイトが企業に大きいからです。

 また「補説」では、二〇世紀科学技術の著名な成果の一つである「ハーバー・ボッシュ法アンモニア合成」について、その開発経緯を技術的観点からまとめました。本篇で述べた事項が、実際の現場でどのように表れるかに留意して、既往の文献をもとに記述したものですが、その意図が達せられた否かは読者諸賢の判断に委ねる以外にありません。

 厳格な工学書でも、深刻な問題の議論の書でもありませんので、実験・研究が一息ついたり、またそれに倦んだりされた折に、気楽に読んで頂ければと思うところです。

 なお文章に多少のアクセントをつけるためもあって、所々に日頃はなじみの少ない熟語、故事ことわざの類を入れました。最後に、登場人物の略歴とともに、その語句釈をつけおりますので、適宜ご参照ください

 本書が、企業或いは大学などで、反応工学的な実験、研究に関与される方々に少しでも参考となれば幸いです。

企業の実験・大学の実験 反応工学実験の作法(2022年8月刊、梓書院)

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