反応工学実験の作法まとめ 「企業の実験・大学の実験」抜粋(その5)

実験作法まとめ

 翌日、熱の醒めぬうちにと、自らのメモをもとに箇条書きにしてまとめてみた。しかし、読み返してみると、誠に平凡、技術屋の常談の域をでない、ありきたりのことの羅列である。仕方なしに文語体に改めて多少の ( ) り張りをつけることとした。ただし旧仮名遣いでは時に思わぬ恥をさらすことにもなるので、無難な現代仮名遣いである。やや多いが一七項目、孫樹先生、技術者らしからずして、ことのほか数字に ( げん ) を担ぐ。太子憲法の条文数、また三番目のフェルマー素数であり、不満はない。そしてこのような場合にいつもするがごとく、一日おいて読み返し、 魯魚 ( ろぎょ ) なきを確認したのち才所君にメールで送った。その内容は下記のようなものである。ただこれだけではやはり物足りぬ。そこで、当日の記憶を辿りながら、適宜具体例など追加し、 添刪 ( てんさん ) を加えてこのような冊子をとりまとめた次第である。少々の脚色はご 宥恕 ( ゆうじょ ) 願い、老馬の智、覆車の戒めの類をも含め、同学後進の諸君の参考になれば誠に幸いである。

反応工学実験作法 

一.理化学の原理・法則との ( かい ) ( ) なき適時検すべし

二.失敗実験また新しき発見の基となることあり、状況に応じ精査すべし

三.安全に十分なる意用いるが実験のはじめ、整理整頓その基本と知るべし

四.人事尽くさずして安全を期待し、また新発見の僥倖俟つ勿るべし

五.先行の文献査するは不可欠にして、時に大いに益すること言うを俟たず。

六.実験研究方法の事前の 考覈 ( こうかく ) 怠るは、のち小患大患に至ると心得べし

七.期待と違わぬデータに思い込みなきか省すべし

八.実験はまずは大要を把握し、しかるのち細部にいたるべし

九.取得データは逐次解析しつつ早めの総括心がけるべし

十.装置機器、環境、担当者調子よき時の一気の実験好ましきことなるべし

十一.実験の現場に出向き立ち会うこと、現物を親しく目睹すること研究要諦の一と心得べし

十二.新たなる実験にては複数の分析手法での確認心がけるべし

十三.実験記録、またサンプルは後日がため能う限り保管しおくべし

十四.実験は一人のものならず、折にふれ関係者、分野異なる専門家の知恵徴すべし

十五.成果たる論文・特許、立場に応じまた時期を見計らいその活用に意払うべし

十六.真っ当なる実験データの前には地位役柄関せず皆平等なること銘記しおくべし

十七.時に先達の労苦功績に思いを致し、而して新しき求め努むべし

企業の実験・大学の実験 反応工学実験の作法(2022年8月刊、梓書院)

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