実験作法まとめ
翌日、熱の醒めぬうちにと、自らのメモをもとに箇条書きにしてまとめてみた。しかし、読み返してみると、誠に平凡、技術屋の常談の域をでない、ありきたりのことの羅列である。仕方なしに文語体に改めて多少の
減
り張りをつけることとした。ただし旧仮名遣いでは時に思わぬ恥をさらすことにもなるので、無難な現代仮名遣いである。やや多いが一七項目、孫樹先生、技術者らしからずして、ことのほか数字に
験
を担ぐ。太子憲法の条文数、また三番目のフェルマー素数であり、不満はない。そしてこのような場合にいつもするがごとく、一日おいて読み返し、
魯魚
*なきを確認したのち才所君にメールで送った。その内容は下記のようなものである。ただこれだけではやはり物足りぬ。そこで、当日の記憶を辿りながら、適宜具体例など追加し、
添刪
を加えてこのような冊子をとりまとめた次第である。少々の脚色はご
宥恕
願い、老馬の智、覆車の戒め*の類をも含め、同学後進の諸君の参考になれば誠に幸いである。
反応工学実験作法
一.理化学の原理・法則との
乖
異
なき適時検すべし
二.失敗実験また新しき発見の基となることあり、状況に応じ精査すべし
三.安全に十分なる意用いるが実験のはじめ、整理整頓その基本と知るべし
四.人事尽くさずして安全を期待し、また新発見の僥倖俟つ勿るべし
五.先行の文献査するは不可欠にして、時に大いに益すること言うを俟たず。
六.実験研究方法の事前の
考覈
怠るは、のち小患大患に至ると心得べし
七.期待と違わぬデータに思い込みなきか省すべし
八.実験はまずは大要を把握し、しかるのち細部にいたるべし
九.取得データは逐次解析しつつ早めの総括心がけるべし
十.装置機器、環境、担当者調子よき時の一気の実験好ましきことなるべし
十一.実験の現場に出向き立ち会うこと、現物を親しく目睹すること研究要諦の一と心得べし
十二.新たなる実験にては複数の分析手法での確認心がけるべし
十三.実験記録、またサンプルは後日がため能う限り保管しおくべし
十四.実験は一人のものならず、折にふれ関係者、分野異なる専門家の知恵徴すべし
十五.成果たる論文・特許、立場に応じまた時期を見計らいその活用に意払うべし
十六.真っ当なる実験データの前には地位役柄関せず皆平等なること銘記しおくべし
十七.時に先達の労苦功績に思いを致し、而して新しき求め努むべし
「企業の実験・大学の実験 反応工学実験の作法」(2022年8月刊、梓書院)
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